海霧(じり)を裂いて投光器は虚無を見る み
そうやないんや生きていけ枯れ葎(むぐら) み
ローラーコースター停止。雲の峰 み
氷瀑(ひょうばく)に登る人 命綱こそ み
灯り消せ。闇に降る雪の黒白(こくびゃく) み
蜉蝣(かげろう)のなほ儚きや骸(がい)は塵(じん) み
花園の向こう 父の口は『ヘ』の字 み
夜桜の根元に 何か埋まってる み
メンバ、順に去る ギタリストの夜寒(よさむ) み
山仕舞い 主(ぬし)待つリュック 小屋に置き や
曼殊沙華(まんじゅしゃげ) 野分(のわき)に倒れ 朱(しゅ)の潤む み
八月や死者には選挙権がない み
空蝉(うつせみ)を集めるは自由研究 み
集積場(しゅうせきじょう)に扇風機 空仰ぐ み
超低温に砕かれるを待つ薔薇(ばら) み
花は葉に その子はまだ ICU(あいしいゆう) ど
吾(あ)を見上ぐ 「まだ生きてるよ」 落椿(おちつばき) み
夜桜冴えて世の縁取(ふちど)り顕(あき)らか み
北窓開(あ)く父の書斎 三回忌 み
ネーブルの手に重きは生の証(あかし) み
弱りし友残し雁帰る 無情 み
姉の遺品で官女雛(かんじょびな)に再会 ま
『ホトトギス』 主(ぬし)亡き春に紙資源 み
ジョナサンと名付けし寒雀(かんすずめ)の 骸(がい) み