屋根屋根のブルーシートに春霞 み
ベランダにタオルが飛ぶよ春の雲 み
あの橋を渡れば全て麗(うら)らかな み
戸の隙間 朝日の軌跡 蝉氷(せみごおり) み
枯庭の掃出し窓に訪問者 み
雪の積もった信号機、ピッポ―ピ… み
開かずの蔵を開ける。湿気寒(しけさむ)の風 み
畳を替えれば縁(へり)に二度躓(つまづ)く み
戸を開け放て。隙間風(すきまかぜ)はなくなる み
「現空(げんくう)」なのにベランダに秋簾(あきすだれ) み
秋の戸の門扉(もんぴ)の錆(さび)が固すぎて み
秋湿(あきじめ)りの町 声が満ちる酒場 み
あのビルをお前にやろう。秋日和 み
「ペンキぬりたて」の遊具に風死して み
新居ならまだカーテンはなく夕焼(ゆやけ) み
夏座敷、鼠も猫も通り抜け み
縁側に晒(さら)した足裏が日焼け み
『評価5』の宿なの通気口に黴(かび) み
キーキーと網戸が開(あ)く隣戸の朝 み
塔から瞰(み)れば街の愁いは霞(かす)み み
春浅し願いの橋は未成道 み
隠れ家は歪(ゆが)むガラスに霜の花 み
寒暁(かんぎょう)に染まる議事堂(ぎじどう)見つつ帰路 か
風雪に屋根の十字架なお蒼(あお)し み
くしゃみ出る。なにかの化学物質が み
露凍り落書きキラリ地下歩道 み
鈍色(にびいろ)の雪の町、夕餉(ゆうげ)の煙 み
冬館(ふゆやかた) 名探偵が なぜかいる み
雪催(ゆきもよ)い、階下でドアの閉まる音 み
摩天楼(まてんろう)を見張る出窓に干し柿 み