いまはコーヒーに凝っている。冬の夜(ふゆのよ) み
『愛』に訓読みはなく月夜の匂い み
ブルを射た残心が纏(まと)う香水 み
隣席の扇子、汗の臭いを撒く み
鰹船(かつおぶね)の換気口にカレーの香 み
山葵(わさび)擂(す)る。ひとりひとりがマイノリティ み
断片化した記憶で嗅ぐ早梅(そうばい) み
開かずの蔵を開ける。湿気寒(しけさむ)の風 み
タオルを畳む。冬陽(ふゆひ)の香(か)を折り込む み
新松子(しんちぢり)、投げよと捥(も)いだ手の臭(にお)い み
扇風機が散らかす西日の匂い み
香烟(こうえん)のゆるり昇りゆく炎天(えんてん) み
地層見る。夕立晴れてゲオスミン み
青すだれ朝の日射しに匂い蒸す み
下痢止めの香(か)も芳(かぐわ)し紙風船 み
柚子の香が月も包めり露天風呂 み
線香花火、怖い 柄の端を持つ み
変心の夜の香を覆(おお)え沈丁花(じんちょうげ) み