部屋着のまま駅へ行く。春の闇に み
三椏(みつまた)の花(はな)のブローチを吾妹(わぎも)に み
右耳を左手で触る霜焼(しもやけ) ま
マフラーをするりと抜ける艶(つや)の髪 み
振袖の福良雀(ふくらすずめ)はミッキー似 み
手袋と手袋の握手。冬山 み
コートを着たまま入(はい)るのが礼儀だ み
黒いセーターで横たわる丘陵(きゅうりょう) み
『ざっくり』がコツ。極太毛糸で編む ま
うしろから背広を着せる。もう九月 ま
雷雨去る。タンクトップの肩光る み
湿風(しっぷう)もシャツの背ふくらめば涼し か
挙手(きょしゅ)して静脈(じょうみゃく)が透く浴衣(ゆかた)の人 み
転がる空き缶 踏み止めた白靴 み
香水の瓶は鏡台(きょうだい)の女王(じょおう)よ ま
入社式、仕立てスーツの春暑し か
理髪店出れば花冷えヘックション み
釜の湯がぶつぶつ言(ゆ)うて足袋(たび)を脱ぐ ま
毛糸帽で寝癖を直し出勤 か
「食器」の段ボール箱から綿入れ み
着膨れの我慢大会25℃ み
寒いよね、カフェのテラスのスティレット ま
手袋の錆(さび)は…跨線橋(こせんきょう)の手摺(てすり) み
山茶花梅雨(さざんかづゆ)に促(うなが)されコート買う み
撫子(なでしこ)の襲色目(かさねいろめ)のアロハシャツ ま
日焼止め、耳に塗り忘れ『芳一』 み
白靴(しろぐつ)にアンクルパンツは素足(すあし)よ ま
似合わないが買ってしまえパナマ帽 み
衣替え、買ったまま着てない服や ま
ワイシャツの背の汗ぞ春終わりける み